石川九楊、モンク、Umwelt、原弘

〈石川九楊展〉

7月5日から、「書だ! 石川九楊展」が始まった。チラシ(裏面4種)、ポスター、図録(縦横二分冊)などをお手伝いした。よく考えられた展示デザインで見応えがある。じっくりと石川さんの作品を鑑賞できる。これほどまとめて見られるのは貴重な機会だ。ぜひ、ご覧いただきたい。30日まで。

美術館の大きな壁面のそばにいるのは、私のアシスタントの赤波江さんと京都精華大教授の高橋トオルさん。入口の看板には字游工房の鳥海修さん。いずれも内覧会で。

 

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吉本隆明の「石川九楊論」から引用する。

〈石川九楊の「書」を語ることは、結局は文字が書かれる背景が「自然」そのものに外ならないという「書」の鉄則を、どう拒み、異を立て、また同化を強いられては、また抜けだそうとしたかといった、もしかすると不可能かもしれない背景=自然との格闘や確執や、それを「自然」以外なものに変えようとする苦心を語ることになるような気がする。伝統的な書家たちは、そんなのは無駄な余計なことで、はじめから敗北にきまっていると、嗤うかもしれない。またそんな問題意識すらもたないで済んでいるかもしれない。だが石川九楊は真剣にそんな問いを発し、ごまかさずに試み、またちがう場面に転戦しということを、飽くことなくやっている。ああいいなあ、こんな書家がいるかぎり、書家の存在を捨像して、現在の造形的な芸術は語れないのだなと納得させられる。〉

石川九楊さんの書の力については、これにつきる気がする。この文章の最後の部分が、展示や美術館壁面に引用されている。

〈水墨画とちがうところは、水墨画が紙幅(または布切れ)の「自然」空間に〈自然の景物〉や〈自然のなかの人物〉を点綴して描くのにたいして、九楊の書は〈異化された文字〉の形象で紙幅(または布切れ)の「自然」空間を〈領属化〉していくことであった。私の理解の仕方では、書とは何か、書は紙幅(または布切れ)の「自然」に打込まれた文字形象が織りなす美でいいのか、という九楊の飽くなき自問自答は、ここでは〈異化された文字形象〉いいかえれば、文字形象を水墨画的な景物のように使うところにあらわれている。この模索は、〈領属化〉に使った「文字」の意味と交響しながら、わたしたちの眼に入る九楊の初期を形成している。〉

〈楷書文字と対応させなければ、それがその文字であることを了解することはできないだろう。また対応させれば、その文字だと納得することができるようには、文字形象は辛うじて表現されている。ではこの九楊の書のそれぞれの文字の表現は、何によってその文字であることを保証されているのか。墨をできるかぎり少なくして、割れるような穂尖で、背景の紙幅(または布切れ)を擦過するようにその文字形象を作ることによって。ほんとは運筆して文字形象を作ることを拒みながら、ただ念慮みたいな他動的な意志で、その文字であることを念じて作られた形象のようにさえみえる。紙幅は「書的」な形象を作ろうと意志するかぎりは「自然」に転化してしまう。九楊はそのうえに「異和」を点々と擦過していってるかにみえる。〉

 

〈本の背の文字〉

7月3日、「本の雑誌」9月号の特集「背表紙の研究!」のために、鳥海修さんと三省堂書店神保町本店で書棚を見ながら、本の背文字のデザイン批評対談をした。詳しい話の内容は、8月10日ごろ発売の9月号誌上でお読みください。開店の午前10時からスタートし、途中にお昼をはさんで午後5時までかかる。その折に気になった本の背文字の書体。美術書のコーナーにて。『ピカソ』は「カソ」が〈さおとめ金陵M〉「ピ」は〈たおやめM〉。「ピ」と「カソ」は、よく見れば書体が別物とわかり少し違和感を感じる。面倒なことをしている。〈さおとめ〉の「ピ」がたよりないからだろう。〈さおとめ〉の「ピ』と比較すると、〈たおやめ〉の「ピ」は、第一画、第二画ともに打ち込みが強く、終筆部が少し長くて安定しているように見える。右隣の『ロダン』の背文字は、フォントワークスの〈グレコDB〉。

ピカソやロダンに楷書体風な仮名(どちらも漢字は明朝体を組み合わせるから、明朝というべきか)を使う理由がわからない。ピカソやロダンの作品にあわせての楷書なのか。二人の美術史上の巨匠に、この「へなへな」な書体を使って何を求めているのか。優雅さなのだろうか。大体、活字化された楷書の仮名書体に感心するものが

見あたらない。楷書を使う時に、いつも仮名に苦労する。両方とも同じデザイナー。左の『評伝 ピカソ』に目をやると、奇妙な「評伝」という漢字。ダイナコムウェアの〈DFP新篆体〉。ピカソの評伝に篆書体とはどういうつもりなんだろう。

 

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〈ソロ・モンク〉

和田誠さんが、ポール・デイヴィスの絵の「Solo Monk」を描いている。セロニアス・モンクの1965年のアルバム。なぜモンクが飛行機のパイロットなのだろう。このジャケットは一度見たら忘れられない。カッコよくて、すぐにほしくなった。タイトル文字がモンクの頭のそばの真上にある。文字の大きさと絵のバランスが面白い。この書体は、Thalia(1894年)。まさにアール・ヌーボ風。演奏されている曲の古さにあわせているのだろう。一曲目の「DINAH」は、日本人にはお馴染み。ディック・ミネやエノケンが歌っている。オリジナルは1925年。12曲中、モンクの作った4曲以外は、ビング・クロスビーやシナトラが歌った曲を含む、1930年代から1940年代のポピュラーソングがならんでいる。私が最初に聴いた10代終わりでは、「ダイナ」ぐらいしか知らず、モンクのピアノに面食らった。今は楽しんで聴ける。「I’M CONFESSIN’」がETVの「2355」で流れている。

 

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〈Umwelt〉

最近、京都のUmweltで見つけた、ドイツのシギキッドの車と、スゥエーデンのロールストランドの砂糖入れとミルクピッチャー。砂糖入れが日本酒を飲む盃にするとよいかな。広い口のが好きだから。ピッチャーは何に使えばよいか。微妙な黒とグレー。車はきっとポルシェ。デフォルメが美しい。赤い色がいい。大きな丸い玉の車輪が楽しい。

 

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そのUmweltの魚住さんが、買い付けに行ったデンマークから送ってくれた絵葉書の切手。THE ICEBERG。デンマーク第二の都市、オーフスの港湾地域の再開発でつくられた集合住宅。2013年。icebergは氷山という意味。それがこの建築のテーマなのだろう。氷のかたまりにみえる。絵葉書はWiliam Kentridgeのヴィデオ作品。LOUISIANA MUSEUM(デンマーク、コペンハーゲン)での展覧会。本は2009年のサン・フランシスコ現代美術館の図録。同じ年に日本でも大きな展覧会を開いている。

 

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Umweltの7月の催し物「織姫の布市」の案内状。この「布市」の様子をたずねたらこんなメールをいただいた。〈織姫の布市は、写真のように手前の壁面を中心に、主に店内の前半分で開催しています。本来ですと、棚やテーブルに敷いて使う、言わば引き立て役の布を布市では主役にすべく、壁に絵を飾るようにパッチワーク状に配しています。売れるとその場所が空くので、また新しい布を足してさらに並び替えて、を日々繰り返すことも私には楽しい作業です。〉

 

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〈勉強が好きになる〉

メトロで会った小学6年生。旺文社の「学校では教えてくれない大切なこと」シリーズ、第13巻の『勉強が好きになる』を読んでいた。となりの友だちが読んでいるのは、同じシリーズの『時間の使い方』。

 

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〈犬〉

天神橋のお店にいた犬。13000円也。

 

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〈なかづり〉

なかづりの中吊り広告。大阪のJR車内。

 

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〈カウガール〉

「もっと!eこと!」というキャッチの、JRのきっぷのネット予約の広告。カウボーイ風の女の子。『アニーよ銃をとれ Annie Get Your Gun』のイメージを借用している。この彼女は銃の代わりにスマホを持っている。買うガール=Cowgirl。この駄洒落、誰もがピンとくるのか。この言葉を初めて知ったのは、Neil Youngの「Cowgirl In The Sand」。1969年のアルバム『EVERYBODY KNOWS THIS IS NOWHERE』。アメリカにはCowboyだけでなくCowgirlもいるのかと思った。Cowgirlというのは何をするんだろうか。

 

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〈投票所〉

毎度やる気がない中野の選挙管理委員会。さみしい投票所。これでは本日投票日ってわからない。7月2日の東京都議会議員選挙。

 

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〈三冊の本〉

 

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『食前食後』池田弥三郎/日本経済新聞社/1973年刊/装丁=原弘/四六判・上製/函入り/角背

函、表紙共にタイトルは紙貼り。文字は写研の石井中明朝体。函のラベルに書名と本文の章の見出し5本がデザインされている。著者名が先、このタイトル部分のかたまりと左下の出版社名のバランスがよい。これは本文の別丁扉と共通するイメージ。函の背の版元は横組、表紙の背では縦組。表4の定価は太明朝体と数字はボドニ。

表紙の平(表1)はタイトルのみ、背は著者、題、出版社名。背のタイトルの赤の部分がずれているのは印刷でだろうか。

表紙は茶色、見返しは表紙よりやや薄い茶。別丁扉は濃いクリーム。スピンは焦げ茶。花布は赤。

目次が美しい。目次にノンブルがあり、ローマ数字。

本文は10ポ岩田、40字×16行、行間7ポ、天21ミリ、地24ミリアキ、小口から18ミリ。柱=8ポ、字間2分アキ、小見出しは12ポ、字数によって字間を、ベタから全角まで変えている。字間を変えるのは次の本も同じ。活版の組版の慣習なのか。本文版面は、他の部分にくらべて気が抜けるくらいごく普通である。

 

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『くだもの風土記』高野吉太郎/毎日新聞社/1975年刊/装幀=熊谷博人/四六判・上製/函入り/角背

函のタイトルは紙貼り。題字は著者の書いたものだろう。「新宿高野」の三代目。グリーンの帯、文字は写研の石井細明朝体。

表紙は、明るいベージュの、シボがある「新だん紙」。背のみに書名と著者名が銀の箔押し、社名は横組で空押し。見返しはオレンジ。別丁扉は、写研のモトヤ特太明朝体。スピンはなし、花布はオレンジ色。

この本の特長は、本文が短く、下に下げてあること。目次も下げてある。本文は9ポ岩田、前半の「くだもの風土記」は30字詰め(行間全角=9ポ)、上に果物の絵がある(カット=今井一志)、小見出しは12ポ、こちらも『食前食後』と同じく、字数によって字間を、ベタと四分の2種にしている。後半の「くだもの百果」は32字詰め(行間8ポ)。前半と後半で字間を1ポ変えてある。

前半、天70ミリ、地25ミリアキ、後半天64ミリ、地25ミリアキ、小口から33ミリ。右頁は、縦組で7ポ漢数字ノンブル、左頁は柱と一字アキでノンブル。ノンブルが本文の地と揃えてあるが、24ポほどの広いアキがあるので気にならない。

 

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『九重式織物教室』九重敏子/同学社/1952年刊/装幀=九重浦子(著者の娘)/A5版/並製・表紙厚紙でチリ(1ミリ)あり/角背

本文の扁平な仮名は秀英9ポ。帯もこの9ポ。岩田明朝体がもとにした秀英8ポの仮名とは、かなり形がちがう。「い」がつながっている。小宮山博史さんの話では、これはベントン母型の活字。

1952年にこのブックデザイン。装丁をした著者の娘の浦子さんは、帯文を寄せている猪熊弦一郎に師事している。そのセンスが活かされている。表紙の平と背は描き文字のタイトル。よく出来ている。表紙は3分の2のグレー地に、縦の3ミリ幅の金のストライプ、残りは紙の地色。上下にカーブのある不定形の窓が穿たれていて、扉のタイトルと著者名がのぞく。何より帯がタイトルと著者名の間(天地中央よりやや下め)にあるのが驚きである。帯には、表1、4共に罫が使われている。

 

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今日の一曲

I’m Confessin’ (That I Love You)/Thelonious Monk