平野甲賀、『鵞鳥湖の夜』、シナリオ、伊野孝行

久しぶりのブログです。

 

〈ヴァンヴの犬〉
この小さな犬は、パリのヴァンヴの蚤の市で見つけた。ミニチュアのセットのひとつみたい。

 

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〈平野甲賀さん〉
平野甲賀さんが亡くなった。3月25日の小さな新聞記事。私は平野さんの装幀にあこがれて、ブックデザインを始めた。

 

平野さん_朝日_032521

 

平野さん_東京_032521

 

(上は朝日新聞、下は東京新聞)

 

〈切り株〉
郵便局の宿舎、取り壊しなのか大きな桜の樹が六本切られてしまった。その切り株。どれも大きな木で毎年見事な花を咲かせていた。今年は花が咲く前の2月に伐採された。建物はまだ残っているのに、もう一度咲かせるまで待てなかったのか。無惨。約30年前に越してきた頃、近所は桜の多いところで、春は犬といっしょの散歩が楽しかった。学校や社宅、大きな家が建て変わったり、なくなるたびに桜の木が切られていく。

 

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〈「シナリオ」〉
最近の「シナリオ」誌をまとめて。早稲田の本屋さんの雑誌の棚で。

 

「シナリオ」2月号の表紙は『鵞鳥湖の夜』のグイ・ルンメイ。
3月号は大杉蓮追悼特集(表紙の写真は、大杉修平が撮った父・大杉漣)。
4月号はシナリオ・ハンティング特集(表紙は、伊野孝行くんが銚子をシナハン中の脚本家和田清人さんを描いている)
最新5月号はポリコレ特集(表紙は、南伸坊さんの描く『『エロ事師たち」より 人類学入門』)

 

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IMG_8972_シナリオ_5月号

 

〈『鵞鳥湖の夜』『薄氷の殺人』「シナリオ」〉
2月に『鵞鳥湖の夜』を下高井戸シネマで見た。友人の脚本家・西岡琢也君から、封切りで薦められていて見逃す。なかなかストーリーが追えず、主人公の二人以外は顔が覚えられない。インタビューを読むと、これは監督の意図らしい。スリリングな展開の熱に引っ張られて、見終わったときはぼーっとしたまま。翌日、じわりとさまざまなシーンが心にしみこんでくる。絵画的といえばいいか。映像が、素早いタッチで筆を走らせ描いているよう。色彩感覚が独特で刺激的。新鮮な衝撃だった。
西岡君は『在りし日の歌』を気に入っていて、これも下高井戸で見た。いい作品だった。二作とも中国映画の新しい世代という。

 

「シナリオ」2月号に、この二本が〈私のお気に入り映画2020〉で選ばれている。
〈今年は圧倒的に『在りし日の歌」ですね。改革開放後の中国を生きる夫婦の、三十年後の変転を丁寧に追う。(略)何より、長玉(望遠)を効果的に使ったカメラがいい。広大な中国の大地の中では人なんてケシ粒のような存在にすぎない、人間の営みは儚いものだと教えてくれる。テンポの速い音楽とヨリ画(え)を短く繋ぐモンタージュ全盛の昨今の映画の中で、ゆったりした物語の進行と大きな画(え)作りは際立っており、風格さえ感じる。映画の王道ですよ、これが。〉西岡琢也

 

〈今年のお気に入りは『鵞鳥湖の夜』だ。監督が『薄氷の殺人』のディアオ・イーナンということで、楽しみにしていた。(略)作中の台詞は少なく、スクリーンに映る登場人物たちは無表情のように見える。『薄氷の殺人』と同じ印象を受けた。それでもそれぞれの行動原理が強いので、どんどんストーリーに引き込まれていく。〉横幕智裕

 

鵞鳥湖の夜_パンフ

 

3月になって『薄氷の殺人』を早稲田松竹で見た。『鵞鳥湖の夜』との二本立て。『鵞鳥湖』は二度見ても発見が多く楽しめる。第64回ベルリン国際映画祭で、金熊賞と最優秀男優賞(リャオ・ファン)を受賞した、前作『薄氷の殺人』にも感心した。リャオ・ファンは見たことがあると思ったら、ジャ・ジャンクーの『帰れない二人』に出ている。『鵞鳥湖』と『薄氷』の二作に共通することがいくつかある。謎の女があらわれ、それに男がかかわる。意表をつく音楽とダンスシーン。地方都市が舞台で、中国の市場経済導入の混乱の時代。
この三作の中国映画は、共通して独特の悲哀が底に流れている。ディストピア化に向かっている中国社会の不安が作品に影を落としている気がする。映画は常に社会を反映する。高度成長期の日本映画に見られたのとは別のやりきれなさ。体制が目指しているものがちがう。

 

早稲田松竹_ディアオ・イーナン

 

〈ディストピア〉
「週刊新潮」3月25日号の、片山杜秀さんのコラム「超近代国家のパンとサーカスーー中国共産党百年に寄せてーー」から。
〈中国共産党の壮大な実験は曲芸的に持続している。(略)中国は常識を超えた。清朝崩壊から内戦や日中戦争を経て中華人民共和国の成立へ。皇帝独裁の前近代から一党独裁の超近代へ。議会政治を伴う普通の近代が無い!(略)近代民主主義を未体験の中国民衆にも、政治について絶対許せぬ事柄が伝統的にひとつある。政治腐敗だ。巨大国家と地方末端まで中央集権で統治しようとすれば、行政機構は複雑に膨満し、コストも嵩む。中央はその面倒を見きれず、官僚らは勝手な集金を始める。そうせぬと仕事に見合った収入を得られない。かくて賄賂が横行。中国史を貫く当たり前である。(略)習近平が何を始めたか。反腐敗闘争だ。(略)先富論というパンと反腐敗闘争というサーカスのセットが出来上がる。しかも、迷宮性と腐敗臭を免れなかった巨大行政機構は、人工知能を利用した監視システムの徹底導入によって、革命的に安価に透明に効率化しつつある。
中国共産党は、富者の幸福な社会主義という究極のユートピアと、完璧なる一党独裁のもとでの人民管理という極限のディストピアを表裏一体とした超近代へと、今日もひた走る。〉

 

〈石庭〉
近所にある石庭。

 

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〈『となりの一休さん』〉

伊野孝行君の『となりの一休さん』が出ました。詳しくは彼のフェイスブックとブログをご覧ください。去年の12月から相談して出来上がってきた。カバーから本文まで全部、赤波江春奈といっしょにデザインしました。そのデザインの話は次回に。いい本です。
伊野君の個展「風狂」が4月16日(金)からHBギャラリーで始まります。

 

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今日の一曲はこれ。
People Get Ready/The Impressions