〈多和田葉子〉

朝日新聞の新連載、「多和田葉子のベルリン通信」(5月19日)。〈歴史の輪郭が次の世代に伝わりにくくなってきた。〉というのは、日本も変わりない。21世紀は20世紀とはまったくちがう。時間はつながっているはずなのに。19世紀と20世紀もそうだったのだろう。美術の歴史をみるだけでも、20世紀は大きな変化をとげている。21世紀もまたとんでもない時代。

 

〈今ドイツ社会が揺らいでいるのは、難民を受け入れたからでもテロ事件が起ったからでもない。保守も革新も同意していた歴史の輪郭が次の世代に伝わりにくくなってきたからだ。ナチス政権が人種、思想、宗教を理由に差別、迫害、殺人を行ったこと、言論の自由を侵害したこと、ナショナリズムを煽って侵略戦争を行ったことは、どんなに政治的立場が違っていても一応みんな認めてきたはずなのに、それを平気で否定するような演説が現れ、支持者を得るようになってきた。〉

 

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〈詩/荒川洋治〉

 

「ユリイカ」4月号の、第22回中原中也賞の荒川洋治さんの選評。受賞作は『長崎まで』野崎有以(思潮社/2016年刊)

 

〈一つ一つの詩では何をしてもよい。もっといえば適当に書いてあってもいい。ゆるくても甘くてもいい。どのようにあってもいいのだ。最後に、ひとつ詩が残るかどうか。全体をつらぬく、一筋のものがあるか。それを基準に詩をみることが大切だ。(略)一見、たしかに生活作文のような流れではあるが、ところどころに、ここ、というところで、いいフレーズがあり、胸に迫る。さほど人生経験をもたない人にも芽生える強い郷愁、人間的であろうとする願いが、みごとに表現されている。

ことばの組織は、詩ではない。際立つような意匠も飛躍もない。だが、詩はどんなことばで書かれるかではない。詩で詩を書く必要はないのだ。一冊を読みおえたときに、詩があるかどうか。それで価値が決まる。『長崎まで』には、詩がある。一筋の詩を感じる。詩を書く人の才能を感じる。〉

 

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〈ソウルの表示と巻貝〉

 

前回のソウルのつづき。大統領弾劾のデモがある世宗路のそばにこんな巨大巻貝がある。一体なんだろうか。夜は隙間からライトが点灯。通りの表示は、ハングル、簡体字、日本語の三ヶ国。以前は日本語はなかった。日本人の観光客が多いのだ。空港でたくさん会った。隣国の爆買いのひともいた。

 

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〈追悼 谷口ジロー〉
谷口ジローさんが2月11日に亡くなった。このブログの原稿をいろいろ用意していたけれど、変更して私がてがけた谷口さんの本のブックデザインを紹介する。
2月17日から20日までソウルにいた。韓国出版学会主催の「韓中日タイポグラフィセミナー」に招かれて研究者にまじってブックデザインの話。セミナーは宿泊したホテルの最上階の会議室。同時通訳で、昼食をはさみ19日の午前9時半から18時まで。最終日の20日には主催者の案内を辞退し自由時間をもらい、ソウルの街を朝の10時から空港お迎えの車が来る午後に2時までぶらぶら。大型書店KYOBO(教保文庫)に行くと、谷口さんの『孤独のグルメ』の韓国版があった。

 

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〈美術館にクロークをお願いします〉
ルカス・クラナーハ展の国立西洋美術館内で見た看板。日本の美術館には、なぜ、海外では当たり前のクロークがないのだろうか。あちらでは小さなバッグ以外、リュックのような大きいものはあずけさせられる。クラナーハ展では、子供は歩かせて、自分たちの荷物をつめたベビーバギーを押しながら鑑賞している親子がいた。クロークがあればあずけられる。ここで美術館の客にたいする気持ちがわかる。クロークならば、係のおじさんやおばさん、あるいはおねえさんとコミュニケーションができる。狭くて淋しいコインロッカーはだめだ。この看板には「大きなお荷物、重たいお荷物以外はお手持ちください」と書いてあるが、そんなに大きなコインロッカーはない。世界遺産の国立西洋美術館なんだからがんばってほしい。入り口にある、あのコルビジュエの建築のファサードに似合わないカギ付き傘置きは、クロークがあればなくせるじゃないか。六本木の国立新美術館は入り口に、エントランスより偉そうにしている紀章先生デザインの専用傘置き場がある。なんだあれは。

 

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〈レナード・コーエン〉
先週、午前中のラジオ(NHK「すっぴん」金曜日)で、今週のMUSIC SCRAPの担当の中原昌也が、先月亡くなったレナード・コーエンが大好きだと言っていた。意外だったが、さすが中原昌也だと嬉しくなる。彼が追悼で選んだ3曲は、Suzanne、Diamonds In The Mine、So Long Marianne。「これ、全部おねえちゃんの歌だね」「ボブ・ディランがノーベル賞をとったけど、レナード・コーエンも、前に候補にあがったんだよね」と語る。彼はカラオケでコーエンの曲を唄うらしい。

 

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〈トランプ〉

「アホ!」「何やて!」「アホ!」「何がアホやねん!」「お前はアホじゃ!」「どっちがアホやねん、アホ言う奴がアホじゃ」子供のときのののしり合いの最後はこれになる。さんざんトランプを馬鹿にして、彼をアホやと言っていたこちらも相当なアホだと思う。他所さんの国の他人事ではない暗い気分にさせられる。アホな世界が充満してくる。感情的になりすぎか。こんな単純なことではない。世界が分断されていることが、さらにあらわになった日。

 

伊野孝行君にトランプを描いてもらった。三点も描いてくれた。

 

トランプ1

 

トランプ2

 

トランプ3

 

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テレビを見ていると、ときどきいい言葉に出会うことがある。
「時が経っても変わらずにいたら、それは新しいものになると信じているんだ」〈パオロの食堂〉店主(世界入りにくい居酒屋・ボローニャ篇)

 

〈教会〉
久しぶりに十貫坂教会。「生きた石として用いられる」、強い言葉だ。生きた石になれるだろうか。

 

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9月24日から27日まで東北に行った。松尾芭蕉の本のために、奥の細道の一部をたどる。松島から出雲崎まで。iPhoneで撮る奥の細道。まず塩竈から松島へ。芭蕉と曾良は、5月9日(6月25日)の朝、塩竈明神に参詣。〈早朝塩がまの明神に詣。〉お昼には船で松島に渡る。〈日既午にちかし。船をかりて松嶋にわたる。其間二里余、雄嶋の磯につく。〉まずは、仙石線で仙台から本塩釜まで。

 

今回は初日24日の写真。東京発9時08分こまちで、10時40分仙台に。11時7分の東塩釜行き、11時36分本塩釜に到着。

 

車内の手作りのマナーポスター。乗客はそんなにマナー悪くない。

 

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〈灘本さん〉
森英二郎さんが、自身のブログMEXOS-HANAXOSで灘本唯人さんの思い出を書いていた。60年代のデザイナーには関西出身のひとが多い。田中一光、横尾忠則、早川良雄、黒田征太郎、長友啓典、山城隆一、永井一正など。伊野孝行君と丹下京子さん、霜田あゆ美さんが灘本さんの絵を描いてくれた。ちなみに、彼らは灘本さんから顔もおぼえられていなかったという。個人的には、灘本さんから60年代と70年代のお話をきちんと聞いておきたかった。残念だ。

 

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